2019年、金融庁の報告書によって提起された「老後2000万円問題」。この報道は、多くの人々に不安と焦りを与えました。しかし、この問題はあくまでも試算であり、必ずしもすべての人に当てはまるわけではありません。
大切なのは、ご自身のライフプランに合った老後資金の準備を早めから計画的に進めていくことです。
そこで今回は、老後2000万円問題を正しく理解し、不安を解消するための6つのポイントをご紹介します。
①老後2000万円問題とは何か?
老後2000万円問題は、夫婦が老後30年間、年間200万円の生活費を賄うためには、約2000万円の貯蓄が必要になると試算されたものです。しかし、これはあくまでもモデル世帯の場合であり、個人のライフスタイルや住む地域、医療費の負担などによって、必要な老後資金は大きく異なります。
つまり、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみで無職の世帯の場合、
月の平均収入「約21万円」 - 月の平均支出「約26万円」 = 毎月の不足額の平均は「約5万円」
であり、まだ 20~30 年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で 1,300 万円~2,000 万円になるというものです。
参考情報
- 金融庁:高齢社会における資産形成・管理
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
高齢夫婦無職世帯での平均支出金額
2022年の総務省統計局「家計調査」のデータに基づいて作成された、高齢夫婦無職世帯(65歳以上の夫婦のみで構成される無職世帯)の平均的な支出金額です。
項目
- 食料:米、パン、野菜、果物、肉、魚介類、乳製品、卵、外食費など
- 住居:家賃、住宅ローン返済額、共益費、修繕費、火災保険料、固定資産税、水道光熱費など
- 被服:衣服、靴、かばん、クリーニング代など
- 家具・家事用品:家具、寝具、家電製品、食器、調理器具、掃除用具など
- 交通:電車賃、バス運賃、ガソリン代、駐車場代、高速道路料金など
- 通信:電話代、携帯電話代、インターネット通信料など
- 教養娯楽:書籍、新聞、雑誌、映画、音楽、スポーツ観戦、旅行など
- 医療:病院代、診療費、薬代など
- その他:理美容代、交際費、贈答費、社会保険料、生命保険料、組合費など
平均金額
食料:約4万2,544円(全体の約16%)
住居:約3万2,852円(全体の約12%)
被服:約6,890円(全体の約3%)
家具・家事用品:約5,370円(全体の約2%)
光熱・水道:約1万2,970円(全体の約5%)
交通:約8,508円(全体の約3%)
通信:約5,808円(全体の約2%)
教養娯楽:約6,890円(全体の約3%)
医療:約2万9,048円(全体の約11%)
その他:約1万1,000円(全体の約4%)
月間の平均支出合計額:26万8,508円
特徴
- 支出項目の中で最も割合が高いのは「食料」で、全体の約28%
- 次いで「住居」が約26%「医療」が約16%
- 一方「家具・家事用品」や「教養娯楽」などの支出は比較的少ない傾向
- これは、高齢夫婦無職世帯が節約志向であることや、外出やレジャー活動の機会が少ないことが影響していると考えられます。
注意点
- 上記はあくまでも平均的な値であり、個々の世帯の状況によって支出は大きく異なります。
- また、このデータは2022年の調査結果に基づいており、最新の状況とは異なる可能性があります。
②2000万円が必要かどうかを確認する
老後2000万円問題で重要なのは、自分が実際にどのくらいの老後資金が必要なのかを知ることです。金融庁の「ライフプランシミュレーター」などを活用し、ご自身の状況に合った必要な老後資金を算出してみましょう。
③早めに資産形成を始める
老後資金を準備するには、時間をかけてコツコツと資産を形成していくことが重要です。一般的には、30代から資産形成を始めるのが理想とされています。
④自分に合った投資方法を選ぶ
貯蓄だけでは十分な資産形成が難しい場合は、投資を活用するのも有効な手段です。投資には、株式、債券、投資信託など様々な種類があり、それぞれリスクとリターンが異なります。自分に合った投資商品を選ぶことが重要です。
⑤公的制度を活用する
年金や国民健康保険などの公的制度も、老後の生活を支える重要な役割を果たします。公的制度の内容をよく理解し、積極的に活用しましょう。
⑥ライフプランを見直す
老後2000万円問題をきっかけに、自分のライフプランを見直してみるのも良いでしょう。例えば、より節約意識を高めたり、働き方を工夫したりすることで、必要な老後資金を減らすことができるかもしれません。
65歳から月5万円の不足を補う方法
65歳から年金収入のみでは生活が厳しいと思われます。月5万円の不足額を補うには以下の方法が考えられます。
とにかく収入を増やすことを考える
■パート・アルバイト
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- 体力や時間に合わせて、無理のない範囲で働く
- 介護や事務、販売など、シニア向けの求人情報も活用する
■副業
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- 得意なことや経験を活かせる副業を始める
- ブログ、アフィリエイト、YouTube、ハンドメイド販売など、自宅でできる副業も検討する
■投資
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- 少額からでも始められる投資信託や株式投資で、資産を増やす
支出を減らす
■固定費を見直す
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- 家賃、保険料、通信費などの固定費を削減できるプランを探してみる
- 不要なサービスや保険を解約する
■食費を見直す
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- 自炊を心がけ、外食を減らす
- 食材の買い出しはまとめて行い、特売やクーポンを活用する
■生活必需品を見直す
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- 衣服や家具などは、本当に必要なものだけを購入する
- 中古品を活用する
制度やサービスを活用する
■高額療養費制度
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- 医療費が高額になった場合、自己負担額が軽減される制度
■介護保険
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- 介護が必要になった場合、介護サービスの費用の一部が支給される制度
■公営住宅
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- 家賃が比較的安価な公営住宅に住み替える
■生活保護
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- 最低限度の生活費が保障される制度
早めに準備を始める
■老後資金を計画的に貯蓄する
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- iDeCoやNISAなどの制度を活用する
- 投資信託や株式投資で資産を増やす
■健康維持に努める
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- 医療費を抑えるためにも、健康的な生活習慣を心がける
- 定期的に運動し、バランスのとれた食生活を心がける
専門家に相談する
■ファイナンシャルプランナー
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- 老後資金の計画や家計管理について、専門的なアドバイスを受けられる
■社会福祉士
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- 介護保険や公営住宅などの制度について、相談できる
■行政機関
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- 生活保護や高額療養費制度などの制度について相談できる
65歳から毎月5万円の不足を補うのは、そうかんたんではありません。しかし、上記のような方法を組み合わせることで実現できる可能性はあります。
今では老後4000万円問題とも言われている
今では「4000万円問題」とも言われている「老後2000万円問題」。これは決して他人事ではありません。しかし、準備を進めることで不安の解消は可能です。あなたも正しい知識を得て、計画的に老後生活を実現してみませんか。